海を越えてきた植物たち ~アートで見る帰化植物(特別展示会より)

帰化植物への取り組み

【イラスト:セイヨウタンポポ】
セイヨウタンポポ

私たち日本植物画倶楽部は企画の第2弾として、2005年から「帰化植物」に取り組んでまいりました。 2008年にはミュージアムパーク茨城県立自然博物館で「海を越えてきた植物たち~アートでみる帰化植物」展が開催され、日本植物画倶楽部会員109名によって制作された202種の帰化植物のボタニカルアートが展示されました。
その際にミュージアムパーク茨城県立自然博物館がまとめてくださった冊子をもとに、活動の記録としてホームページに掲載いたします。

参考文献
朝日新聞社(編). 1978. 朝日百科 世界の植物 第12巻. 朝日新聞社.
亀井裕幸. 2006. 外来種と帰化種・帰化植物-用語の問題を中心に-. 東京家政大学生活科学研究所研究報告, (29): 35-42.
日本生態学会(編). 2002. 外来種ハンドブック. 390 pp. 地人書館.
長田武正. 1972. 日本帰化植物図鑑. 254 pp. 北隆館.
長田武正. 1976. 原色日本帰化植物図鑑. 425 pp. 保育社.
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七(編・著). 2001. 日本帰化植物写真図鑑. 555 pp. 全国農村教育協会.
清水健美(編). 2003. 日本の帰化植物. 337 pp. 平凡社.
鷲谷いづみ・森本信生. 1993. エコロジーガイド 日本の帰化生物. 191 pp. 保育社.
環境省ホームページhttp://www.env.go.jp/nature/intro/

帰化植物とは

帰化植物とは,人間の活動によって,外国から日本に持ち込まれ,日本で野生化した植物のことをいいます。
私たちのまわりには,セイヨウタンポポやセイタカアワダチソウ,シロツメクサなど多くの帰化植物が見られます。 現在,日本では1,500種を超える帰化植物が知られており,これは日本で見られる植物全体の20%を超える数字となっています。

帰化植物はいつごろ来たか

【イラスト:セイタカアワダチソウ】
セイタカアワダチソウ

もともと日本にはなかった帰化植物は,いつごろから日本に入ってきたのでしょうか。
古くは,稲作やムギなどの畑作が始まった縄文時代に,作物とともに田んぼや畑の雑草としてナズナやハコベなどの植物が入ってきたと考えられています。 また,同じころ,ヒガンバナやフジバカマなどの有用植物が渡来し,野生化したといわれます。これらの植物は,はっきりした渡来の記録がないので史前帰化植物とよばれ,ふつう帰化植物のリストには入れません。
渡来の起源が分かっている最初の植物は,欧州との交流が始まった戦国時代ごろで,陶器の詰め物に使われたシロツメクサや観賞用に持ち込まれたオシロイバナなどであったといわれます。

明治時代になり,外国との行き来が盛んになると,急激に帰化植物の種数が増加しました。セイヨウタンポポやセイタカアワダチソウは明治になってから日本に入ってきた植物で,もともとは,セイヨウタンポポは野菜として,セイタカアワダチソウは観賞用の園芸植物として導入されました。
さらに,太平洋戦争後になると,ますます海外との交流が盛んになり,それ以降帰化植物の種数は増加の一途をたどっています。
その種数の変遷は,明治初め50種,明治末期100種,戦後400種,現在1,500種となっています。(ミュージアムパーク茨城県自然博物館 小幡)

帰化植物はどのようにして海を越えてきたか

帰化植物が持ち込まれる経路や侵入の原因は,大きく二つに分けて考えることができます。

一つは,何かの目的があって持ち込まれて栽培しているうちに,逃げ出して野生化する場合です。 もう一つは,目的や意図はなく,何かに混じったり,くっついたりして密かに侵入し野生化する場合です。前者を逸出帰化,後者を自然帰化とよぶことがあります。

作物として持ち込まれた植物

【イラスト:カラシナ】
カラシナ

帰化植物には,作物として持ち込まれ,野生化したものがあります。作物といっても多岐にわたります。
私たち人間が食用とするもの,薬草として利用するもの,繊維をとるもの,牧草として家畜のえさとするものなどさまざまです。 食用作物の例として,地下にイモをつけるキクイモがあります。キクイモは,特に戦後の食糧難の時期に栽培されましたが,今は栽培されることはほとんどなく,道ばたや荒れ地などあちらこちらで大きな群落をつくっていることがあります。
同じく,食用とする植物に,西洋料理に添えるオランダガラシ(クレソン)があります。野生化したオランダガラシは,都市部の池から山中の渓流まで旺盛に生育しています。
また,食用とするカラシナや種子から油をとるセイヨウアブラナなどは菜の花とよばれ,春になると川の堤防や河原に群生しています。

薬草として導入されたものにマメ科のエビスグサやハブソウがあります。両者とも,種子を煎じてハブ茶として利用されます。これらが逃げ出したものが,畑地,牧草地,道ばたなどに広く見られます。また,種子からヒマシ油をとるトウゴマも薬用植物で,西日本を中心に野生化がすすんでいます。 牧草として持ち込まれたものに,オーチャードグラスとして知られるカモガヤ,乾燥すると香料のクマリンの香りを発するハルガヤ,世界中で牧草として栽培されているホソムギやオオアワガエリなどのイネ科植物があります。これらの植物の種子は消化されずに家畜の糞に混じって運ばれたり,自動車のタイヤについて運ばれたりして,牧草地から日本中に広がっています。
このほかに,クローバーとよばれるシロツメクサやムラサキツメクサ,タチオランダゲンゲ,アルファルファとよばれるムラサキウマゴヤシなどのマメ科植物もまた,飼料作物として導入された帰化植物です。

鑑賞用として持ち込まれた植物

【イラスト:ヤグルマギク】
ヤグルマギク

美しい花を咲かせる観賞用の園芸植物として持ち込まれ,野生化した帰化植物も多数あります。
どこにでも見られるセイタカアワダチソウはその一つで,観賞用に導入され,その後繁殖し,今では空き地や河川敷に大群落をつくっています。 道ばたや空き地で誰もが目にするハルジオンやヒメジョオンも同様に,観賞用として導入されたものです。
また,堤防や道ばたなどで最近よく見かける植物にハルシャギクやナガミヒナゲシがあります。 これらは,ここ数年で爆発的に増え,生育する範囲を急激に拡大する傾向が見られ,今後,他の植物への影響が懸念されます。

一方,観賞用の園芸植物として持ち込まれ,野生化はしているものの,それほどの勢いで繁殖しないものに,ヤグルマギクやコスモス,オシロイバナなどがあります。 ヤグルマギクには,栽培種では多様な色合いの花をつけるものがありますが,野生化しているのは濃青紫色のものです。 コスモスは,歴史が古い園芸植物で,秋を代表する植物として親しまれています。 色美しい花を咲かせるオシロイバナは,果実に含まれる白い粉を化粧のおしろいに例えたところに名前の由来があります。

何かに混じって侵入した植物

【イラスト:イチビ】
イチビ

植物の種子が,何かに混じったりくっついたりしていつの間にか侵入し,野生化することがあります。
外国からの船が出入りする港,羊毛や綿花を運び込む織物工場,輸入飼料を運び込む養鶏・養豚場,輸入穀物を運び込む精米・製粉工場,ダイズを運び込む醤油・豆腐工場,外国からの動物や飼料が運び込まれる動物園などは,帰化植物が侵入定着する拠点となる場合が多く見られます。

最近,トウモロコシやダイズなどの輸入穀物に混じって侵入するイチビが話題になっています。 イチビは,もともと繊維植物として栽培されたこともある植物ですが,野生化して大増殖するといったことはありませんでした。 しかし,最近侵入しているイチビは,ひとたび畑に侵入すると,生産された種子が土の中で長期間生存し,あちらこちらに運ばれては爆発的に発生するという問題を起こしています。 この新旧のイチビは,もともと別の系統だったのか,遺伝的に変化を起こした新しいものなのかは興味深いところです。(ミュージアムパーク茨城県立自然博物館 亀山)

帰化植物が起こす問題

【イラスト:アレチウリ】
アレチウリ

多くの帰化植物は,野生化しても自然界のバランスの中に次第に組み込まれ,悪影響を与えることはあまりありません。
しかし,帰化植物の中には,在来の植物の生育に大きな影響を及ぼしたり,人間の健康や農林水産業などに被害を与えたりする種もあります。 このような帰化植物は,道路工事や宅地造成で生じた裸地や耕作地が放置されて生じた荒れ地を好んで侵入・繁茂します。 そして寿命の長い種子を大量に生産して土壌に貯めるため,駆除が困難になる場合が多くあります。

道ばたに見られるカモガヤ,ホソムギ,ネズミムギなどのイネ科植物は,造成地や道路脇の斜面緑化に使われたものが逃げ出したものです。 これらは,河川敷に見られるオオブタクサなどとともに,初夏から秋にかけての花粉症の原因になるといわれています。 河川敷や荒れ地に見られるアレチウリは,つるをほかの植物に絡ませながら繁茂し,フジバカマなどの絶滅危惧植物が生育する河川敷の植物群落の多様性を減少させる問題を起こしています。 このアレチウリは,茎に刺をもつために,駆除を難しくしています。セイヨウタンポポは,在来種のタンポポと交雑して雑種をつくり,純粋な在来種の系統を失わせる問題を生じさせています。

帰化植物のコントロール

帰化植物は,私たちの生活と密接にかかわりをもっています。帰化植物が引き起こす問題を解決するためには,私たち一人ひとりが問題となる帰化植物を栽培したり,広げたりしないことが大切です。

2005年に施行された外来生物法(特定外来生物による生態系などに係る被害の防止に関する法律)では,日本にいなかった外来生物のうち,生態系,人間の生命や身体,農林水産業に悪影響を与えるものを特定外来生物として指定しています。 特定外来生物には,アレチウリやオオキンケイギクなど12種類の植物があり,外来生物法によってその栽培,運搬,輸入などの取扱いが規制されています。 外来生物が引き起こす問題の多くは,その生物が広く定着した後に明らかになることが多く,その場合,問題を解決するために多くの費用・時間・労力が必要になります。 帰化植物は,園芸,緑化,薬用植物として有益な反面,生態系へ被害をもたらすリスクもあることを十分に考えなければならないのです。(ミュージアムパーク茨城県立自然博物館 湯原)

特定外来生物に指定されている植物

【イラスト:オオキンケイギク】
オオキンケイギク

アゾラ・クリスタータ(アカウキクサ科)
アレチウリ(ウリ科)
オオカワヂシャ(ゴマノハグサ科)
オオキンケイギク(キク科)
オオハンゴンソウ(キク科)
オオフサモ(アリノトウグサ科)
スパルティナ・アングリカ(イネ科)
ナガエツルノゲイトウ(ヒユ科)
ナルトサワギク(キク科)
ブラジルチドメグサ(セリ科)
ボタンウキクサ(サトイモ科)
ミズヒマワリ(キク科)

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